体験レポート
  20071117日、穏やかな日射しの差し込む秋晴れの土曜日に、闘鶏神社の社務所内にある広間にて、「日本文化体験」と名付けられた、田辺国際交流協会の行事が開催された。偶然にも同日、闘鶏神社には、753のお参りに多くの親子連れが訪れており、かわいらしく着飾った子供たちの鮮やかな着物の色が、境内に彩をそえていた。

今回の催しは、TIESの日本文化紹介事業の一環として、日本そして沖縄の伝統芸能を鑑賞することを通して日本文化の一端を体験する、という目的のもと三部構成で行われた。まず第一部に、琴の演奏と着付けの実演、第二部及び第三部は、沖縄の三線を主体とした沖縄音楽と踊りの披露が行われた。当日、一般の来客に加えて、海友会の受け入れ事業により、田辺市を訪れているアフガニスタンの人々にも、観覧に来て頂いた。彼らは総勢15人、20代とみられる方々から比較的年配の方々まで、幅広い年齢層の一団の、政府役人、実業家の人々であり、そのほとんどは男性だったが、イスラムのヴェールを着用した若干名の女性も見受けられた。

まず石橋会長の開会の挨拶、そしてアフガニスタンのグループ代表の、自己紹介を兼ねた挨拶のあと、「琴貴美会」による琴の演奏から日本文化体験は始まった。アフガニスタンの人々に目を向けると、開演前は、舞台におかれた異文化の楽器である琴を、不思議そうな面持ちで見つめていたが、いざ演奏が始まってみると、面前の琴線の上を走る、軽やかな指使いに注目し、それが奏でる音色に耳を澄ませて聴き入っている様子がうかがえた。

続いて、留袖の自装が行われた。舞台の上では、一人の女性が、琴の伴奏を伴って、他人の手を借りずに衣をまとってゆき、着付けの仕上げの、機敏に体を縦横に動かしながら帯を結んでいくところは迫真の演技だった。第一部の最後には、「装道」の方々による花嫁衣裳の着付けが行われた。花婿役として、アフガニスタンの青年に白羽の矢が立った。大柄な彼には、用意された紋付袴の衣装は少し着丈が合わなく、はにかみながら舞台に立つ姿は会場の笑いを誘ったが、華やかに着飾った花嫁役の女性と立ちならぶ姿は、とても様になっていた。

 第二部では、「かりゆし舞踏の会」の方々を中心とした、沖縄の伝統芸能の演じ手による、舞踊と楽器の演奏が披露された。最初に、色鮮やかな、黄色と紅の琉球衣装を身にまとい、そして真紅の花をあしらった琉球花笠をかぶった女性達の舞い。その後は、四台の三線と琉球の太鼓を用いた、格式的な沖縄古典の演奏、「貫花」という紅白の花を交互に貫いた首飾りをかけた女性達による踊り、そして、豊漁を喜ぶ様を表現した、一方は櫂、他方は笊を手にした二人による雑踊りなどが続き、多彩な演目に飽きることなく、沖縄の音楽と舞踊を堪能することができた。

  第三部では、「島唄と三線」をテーマに、沖縄の伝統楽器に現代楽器のドラムが加わり、「涙そうそう」、「ハイサイおじさん」など、いくつかの耳に馴染みのある曲が演奏された。途中からは、興が乗ってきたのか、アフガニスタンの人々が、客席の前に出て踊りはじめた。他の人々もこれに続き、音楽に身をまかせて踊る観客と演者が入り乱れて、会場は熱気に包まれた。

日本文化紹介事業は、紀南地区に在住する外国人、及びこの国に生まれ育ちながらも、平生は日本の伝統文化と疎遠になりがちな日本人を対象に、伝統芸能の実演などを鑑賞することを通して日本文化を良く知る機会を提供する、という趣旨ではじめられた。今回は幸運にも、日本文化の視察に訪れていたアフガニスタンの人々を招くことができた。彼らの好奇心にあふれる眼差しを前にして、演者の人々の演技にも一層熱が入っていたようにもみえ、参加したそれぞれの立場の人々が一体となって楽しいひと時を過ごした。この日本文化体験は、我々が今後、さらに深く日本の伝統文化を知るためのこの上ないきっかけを与えてくれたと思う。